ペットドッグトレーナーの倫理綱領

「犬のしつけ」について専門家に相談したことのある飼い主さんは、全体の10%程度しかいないという調査(2015年7月・電通調査)があります。ご近所の方のアドバイスを参考にしたり、自己流で躾けたり・・・でも、なかなかうまく躾けることができません。ペットドッグトレーナーという仕事を専門にしているプロの指導のもと、一人でも多くの方に犬とのよりよい関係を築いてほしいと願います。そこで、JAPDTでは「犬の事はプロに聞こう!」という習慣を社会に定着させていくために「ペットドッグトレーナーの倫理綱領」を公表しました。

日本ペットドッグトレーナーズ協会の『ペットドッグトレーナーの倫理綱領』は、専門職としての行動指針であり、責任の範囲を社会に対して明示するものです。

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【前文】

「動物の愛護および管理に関する法律」では、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。と定められている。

多くの犬が家庭犬として飼われるようになり、最近では動物(特に犬)との生活は、人の健康に対してより良い影響があると数多く報告されている。しかしその一方、「捨て犬」、「飼育放棄」、「不適切な飼育」など、犬の福祉に関する問題や、「不適切な排泄」、「過剰咆哮」、「咬傷事故」など、人や他犬へ危害を与えるという問題も生じている。

それらの問題の多くは、家庭犬飼育者(飼い主)が、正しい犬の扱い方や教育方法を知ることで予防・改善することができると考えられる。また、このような問題がなくなり、全ての飼い主と犬が「お互いに安全で安心できる」という関係を築くことができれば、今まで以上に我々は、犬達からの素晴らしい恩恵を受けることができると考えられる。

ペットドッグトレーナーは、家庭犬飼育者に、犬の習性を含めた正しい犬の扱い方、そして教育方法を伝えることにより、飼い主と犬とが幸せに暮らすことを支援するだけでなく、全ての人と犬との共生、つまり「社会に受け入れられる家庭犬育成」を行う専門職であると考える。

日本ペットドッグトレーナーズ協会の『ペットドッグトレーナーの倫理綱領』は、専門職としての行動指針であり、責任の範囲を社会に対して明示するものである。

【綱領】

1. ペットドッグトレーナーは、犬の生命や権利を尊重し、動物福祉の向上と「社会に受け入れられる家庭犬育成」を目標に、家庭犬飼育者及び家庭犬を教育する。

2. ペットドッグトレーナーは、家庭犬飼育者及びその家庭犬との間に信頼関係を築き、等しく誠意を持って対応する。

3. ペットドッグトレーナーは、専門職であるという自覚のもと学習を継続し、家庭犬飼育者指導、及び家庭犬教育に必要な知識と技術の維持と向上に努める。

4. ペットドッグトレーナーは、自己の責任と能力を認識し、自己の能力を超えていると判断した場合は適切な指導者を紹介するなどして、対象となる家庭犬、家庭犬飼育者、及び社会の利益を第一に考慮する。

5. ペットドッグトレーナーは、守秘義務を遵守し、業務上知り得た飼育者並びに家庭犬の情報の保護に務め、これを他者と共有する場合には十分に配慮する。

6. ペットドッグトレーナーは、専門職として「動物の愛護および管理に関する法律」ほか家庭犬に係る法律について厳守する。

7. ペットドッグトレーナーは、同業者及び家庭犬に関わる様々な職業に従事している者たちと協働し、家庭犬が広く受け入れられるような社会づくりに貢献する。

8. ペットドッグトレーナーは、自らの健康に留意すると共に、品行を常に高く維持し、社会的信頼を得るよう心掛ける。

【解説】

1. ペットドッグトレーナーは、犬の生命や権利を尊重し、動物福祉の向上と「社会に受け入れられる家庭犬育成」を目標に、家庭犬飼育者及び家庭犬を教育する。

<解説>
ペットドッグトレーナーは、家庭犬飼育者とその家庭犬が、家庭内だけでなく社会の中に受け入れられ、かつお互いが苦痛なく幸せに暮らしていくために必要な知識や技術、そして正しい情報をその家庭犬飼育者と家庭犬に指導・教育する。

2. ペットドッグトレーナーは、家庭犬飼育者及びその家庭犬との間に信頼関係を築き、等しく誠意を持って対応する。

<解説>
家庭犬飼育者のみならず、対象となる家庭犬との間に信頼関係がなくては、犬に望ましい行動を教えることはできない。基盤となる知識と技術による家庭犬のしつけ方指導も、信頼関係のもとで初めて効果的な指導となる。ペットドッグトレーナーは、自らの行動や指導方法について理解と同意を得るために十分な説明を行い、その結果について責任を持ち、信頼を得るよう努める。
家庭犬飼育者の国籍、人種、民族、信条、年齢、性別及び性的指向(同性愛などの指向の別をいう)、社会的地位、経済的状態、ライフスタイル、健康状態等に左右されることなく、平等に誠意を持って対応する。

3. ペットドッグトレーナーは、専門職であるという自覚のもと学習を継続し、家庭犬飼育者指導、及び家庭犬教育に必要な知識と技術の維持と向上に努める。

<解説>
家庭犬飼育者の家庭犬への価値観や意識変化に伴い、家庭犬に求められる社会性の変化も著しい。犬の学習理論や、行動学(生態)に基づいたしつけ方指導に加え、新たなトレーニング技術や他分野の専門知識(衛生管理、人畜共通感染症など)なども取り入れ、常に何が最新で最良かを考え、家庭犬飼育者及び対象となる家庭犬に最善の指導を行うよう努める。

4. ペットドッグトレーナーは、自己の責任と能力を認識し、自己の能力を超えていると判断した場合は適切な指導者を紹介するなどして、対象となる家庭犬、家庭犬飼育者、及び社会の利益を第一に考慮する。

<解説>
ペットドッグトレーナーは、自己の能力を客観的かつ的確に認識する必要がある。自己の能力を超えているケースと判断した場合は適切な指導者(同業者や獣医療関係者など)を紹介し、対象となる家庭犬の更なる改善を考慮する。自己の能力を試すためにむやみに指導期間を長引かせ、家庭犬飼育者及び対象となる家庭犬に不必要な負担をかけないように努める。

5. ペットドッグトレーナーは、守秘義務を遵守し、業務上知り得た飼育者並びに家庭犬の情報の保護に務め、これを他者と共有する場合には十分に配慮する。

<解説>
ペットドッグトレーナーは、家庭犬飼育者並びに家庭犬に関する個別情報を知る機会が多い。「個人情報保護法」では、動物を個人の財産として認め、個人の属性に関する情報は保護の対象としている。家庭犬飼育者から飼育状況に関わる様々な情報を聴取する際には、その目的をよく説明し、トレーニング記録などの管理に注意し、情報の漏洩を防止する。他者との情報を共有する場合は、あらかじめ、対象となる飼育者に共有する情報の内容と必要性を説明し同意を得るように努める。

6. ペットドッグトレーナーは、専門職として「動物の愛護および管理に関する法律」ほか家庭犬に係る法律について厳守する。

<解説>
ペットドッグトレーナーは、「動物の愛護及び管理に関する法律」やその他、家庭犬に係る法律を理解し厳守すると共に、家庭犬飼育者にも厳守するよう指導する。

7. ペットドッグトレーナーは、同業者及び家庭犬に関わる様々な職業に従事している者たちと協働し、家庭犬が広く受け入れられるような社会づくりに貢献する。

<解説>
ペットドッグトレーナーは、「社会に受け入れられる家庭犬育成」を目標に、家庭犬飼育者及び家庭犬に対して最善を尽くすことを共通の価値とする。この共通の価値のもとに、同業者および獣医師、動物看護師、トリマー、ペットショップなど家庭犬に関わる様々な職業に従事しているものと協力関係を維持し、お互いの創意、工夫、努力によって、協働して「社会に受け入れられる家庭犬育成」を広めるよう努める。協働していく上では、お互いの職種を尊重し、立場の違いも理解し、見解の違いなどは話
し合いで解決するよう努める。

8. ペットドッグトレーナーは、自らの健康に留意すると共に、品行を常に高く維持し、社会的信頼を得るよう心掛ける。

<解説>
ペットドッグトレーナーは、身体が資本であるため自らの健康には十分に留意し、家庭犬飼育者指導や家庭犬の教育に支障をきたさないように心掛ける。社会人としての行動や言動に注意し、服装なども清潔に保つよう心掛け、個人の社会的信頼はもちろんであるが、ペットドッグトレーナーという職業の社会的信頼も得られるよう努める。
また、家庭犬飼育者及び対象となる家庭犬、同業者、家庭犬に関わる様々な職業に従事している者への誹謗中傷など相手に損害を与える行為をしてはならない。

附則:『ペットドッグトレーナーの倫理綱領』は、5年毎に見直すものとする。

2015年1月